日本には、少女漫画というジャンルがある。海外では、そもそも漫画を読むのは男性中心であり、『少女漫画』というジャンル自体が存在しない国が多い。このジャンルは、まさに日本独自のジャンルと捉えることもできる。
そして、女性の気持ちや願望を描いた少女漫画は女性だけでなく、男性が読んでも楽しめる傑作が数多くある。今回はそんな傑作の少女漫画の中から、配役を含め原作のイメージを壊すことなく実写映像化し、さらに高い評価を獲得した珠玉のおすすめ映画を10作品紹介する。
1 Recommended movie
ホタルノヒカリ
(2012年)テレビドラマシリーズのその後を描いた劇場版。普段はバリバリと仕事をこなすが、家に帰るとゴロゴロ生活を抜け出せない出不精なホタルも、遂に高野部長と結婚。だが結婚後も生活態度を改める気もなく、新婚旅行すらいけずにいた。ある日高野部長にイタリア出張の仕事が入る。一念発起したホタルも高野部長について、一緒にローマにいくことを決心した。到着したイタリアで、イタリア版干物女とでもいうべき莉央と出会いドタバタに巻き込まれていく。
2 Recommended movie
(c) 2013青木琴美・小学館/「カノジョは嘘を愛しすぎてる」製作委員会
カノジョは嘘を愛しすぎている
(2013年)人気バンド「CRUDE PLAY」の元メンバーである小笠原秋(佐藤健)は、音楽業界のビジネスのやり方にうんざりしていた。ある日、川辺で女子高生の小枝理子(大原櫻子)と出会い、気まぐれに「一目惚れって信じますか?」と声をかける。その言葉を真に受けてしまった理子との付き合いが始まる。付き合っても自分がミュージシャンであることを明かせない秋だが、純粋な理子にどんどん惹かれていくのであった……。
選出理由
佐藤健 演じる小笠原秋が、ズルいぐらいかっこいい設定だ。音楽的な才能に溢れているのに、決して目立ちたがらない。むしろ奥ゆかしさすら感じる。さらに超美人ってわけではないけど、性格や才能をみて理子に惚れる。そりゃ、女子からすれば最高の男だわ!
そして少女漫画といえば定番ともいえる三角関係。本作で恋敵として登場する相武紗季演じる茉莉は、ちゃんと“ムカつける”存在になっている。見ているこちらに「これは大原櫻子を応援しないわけにはいかない!」というふうに思わせてくれる相武紗季の演技に拍手。
なんといっても、この映画は約5000人のオーディションを勝ち抜いて主演をつかんだ大原櫻子なくして語れない。2013年当時、17歳の現役女子高生だった大原櫻子は、音楽プロデューサー亀田誠治、本作の監督小泉徳宏らスタッフが満場一致で選んだまさしくシンデレラガール。この役柄は、大原櫻子のために用意されていたのではないかと思える。演技、役柄、歌声、全てが大原櫻子でなければ成り立たなかった、運命的な映画である。
3 Recommended movie
選出理由
福士蒼汰が演じるイケメン、黒沢大和を満喫するための映画。抑揚がない朴訥したしゃべり方。無口だけど、内に秘めたる思いはアツい。そんなクール男子が好きな女子におすすめ。
川口春奈が「あんなに連続してキスをするシーンはなかなかない」と言うほどのコッテリしたキスシーンも見どころ。「オレのこと好き? 何も言わないと本気チューしちゃうぞ」なんて福士蒼汰に言われて、落ちない女子がいるだろうか? ちなみに、キスシーンだけを2人で練習したというなんだかザワつくような逸話もあるそうだ。
もちろん少女漫画らしく三角関係の展開も見逃せない。個人的には脇役ではあるが、足立梨花が演じるオラオラ系女子のキャラが、ドスが聞いていてよかった。脇役たちの切ないドラマにも注目。
4 Recommended movie
選出理由
「『好きっていいなよ。』の福士蒼汰が最高!」という女子におすすめしたいのが、こちらのストロボ・エッジ。本作でも、クールな福士蒼汰が炸裂しまくり。かといって、感情の変化がないわけではない。蓮は、気持ちが一貫しない男。自分の中で芽生えていく仁菜子への思いに気づき、戸惑いながらも惹かれていく様子を繊細に演じた。
一方で、仁菜子を演じる有村架純の演技にも注目。有村架純自身は芯の強さを感じさせる女優であり、仁菜子のまっすぐなピュアさとは必ずしも合致しないイメージがある。そのギャップをどう克服し、キャラクターを演じきったかはぜひ本編にて確認してほしい。
あくまで個人的な意見だが、男子としては仁菜子に惚れてしまう安堂拓海(山田裕貴)をどうしても応援したくなる。どうみたって安堂がかっこいい、安堂は最高にいいやつだ! まったく、これだから女子という生き物は……。
5 Recommended movie
選出理由
みなさん、本田翼は好きですか!! 編集部でもこの映画を観て本田翼のかわいさにやられた男性続出。本田翼は何をやってもかわいい。当然笑顔はかわいいし、泣いてもかわいい。決して要領がいいわけでなく、おっちょこちょいだけどかわいい。
そんな本田翼が、今作では初恋の相手・馬渕の変貌ぶりに振り回される。「どうしてあんなに変わっちゃったんだろう」というほどそっけない馬渕の変化には、母親の望みを聞けないまま亡くしてしまったことへの後悔があった。
「青春(アオハル)は、いつだって間違える」。今作のあおりフレーズにあるように、七転八倒、喜怒哀楽を全身で表現する本田翼の姿はただただ魅力的。ガラス越しに洸と手を合わせるシーンの、戸惑いと喜びがないまぜになった表情は必見!
6 Recommended movie
(c) 2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ
海街diary第39回日本アカデミー賞最優秀作品賞受賞作品。
(2015年)鎌倉の大きな一戸建てに、女ばかりで生活する三姉妹。父親は15年前に女を作って家を出ていき、その後母親も再婚し家を離れた。親代わりを務めた祖母もとうに亡くなっていた。ある朝、父の訃報が届く。葬儀に参列した三姉妹は、腹違いの中学生の妹すずと出会う。すずは母親がすでに他界しており、ステップマザーとその連れ子と暮らしていた。
選出理由
ホタルノヒカリで演じた綾瀬はるかは一体どこに行ってしまったんだ! いや、いい意味で。綾瀬はるか演じる長女の幸がとんでもなくしっかりもので、ホタルと同じ人が演じているとは到底信じられない。演技の幅を魅せつけてくれている綾瀬はるかに、まずは目を奪われる。次女・佳乃役の長澤まさみは映画『モテキ 』以降、すっかりお得意となった奔放な役柄。三女・千佳を演じる夏帆は一番大らかで、ちゃっかりマイ・ウェイを進むキャラクターである。
しかしなんといっても、この映画は広瀬すずに尽きる。醸し出すあの儚さ。「奥さんがいる人を好きになるなんて、お母さん良くないよね」「私がいるだけで、傷ついている人がいる」なんて、中学生なのにしっかりし過ぎていて、見ているこちら側がハラハラする。そりゃ幸も「一緒に暮らさない?」って声をかけてしまうよね。ちなみに、是枝裕和監督は広瀬すずにだけ台本を渡さず、台詞だけを本人に伝えて芝居をさせた模様。このナチュラルな演技は、そうしたテクニックが引き出したものかもしれない。
物語は、“家族はいいことばかりでない”ということを、こってりした感じではなく、あっさりした味付けでこれでもかと突き付けてくる。でもそのあっさりした味付けがちょうどいいのである。
7 Recommended movie
(c) 2015 ジョージ朝倉/祥伝社/「ピース オブ ケイク」製作委員会
ピース・オブ・ケイク
(2015年)主人公・梅宮志乃(多部未華子)は、恋も仕事も流されるままに身を任せてしまう自分に嫌気がさしていた。男と分かれ、仕事も住む場所も変え心機一転、新しい生活に踏み出す。引っ越した先で、隣人の菅原京志郎(綾野剛)との運命的な出会いが訪れる。今度こそ志乃は主体性を持った恋愛をしようとするのだが……
選出理由
天才・綾野剛! ネットスラングで「※ただしイケメンに限る」というフレーズがよく使われるが、この言葉は裏返すと「女子はただのイケメンには興味がありません」ということでもある。もちろんイケメンが有利はあるのだが、プラスアルファが絶対的に必要であるということだ。
さて、冒頭の言葉に戻るが、本作では「ただし綾野剛に限る」の連発で物語が進んでいく。そんじょそこらのイケメンでは許されない行為が、「綾野剛だと許せる」のだ。レンタルビデオ屋の店長という一見地味な職種も、綾野剛だとすごく映える。男のくせに、2人になると電車のなかでもちょっと甘えちゃう。ただのイケメンでは許されない行為でも、綾野剛だと許せてしまうところが最高の萌えポイントになっている。
そんな綾野剛を堪能するための映画が本作だ。「いろんなこと全部ひっくるめて、オレを愛してろ」なんて言ってみたいですよ。同姓の男からみても「こりゃかっこいいわ」と納得。でも綾野剛以外はこういうことやっちゃだめよ。
8 Recommended movie
選出理由
能年玲奈にとってNHKドラマ「あまちゃん」の次の作品ということもあって注目が集まった本作。尾崎豊の主題歌に暴走族の恋がテーマ。「ちょっとこれって昭和過ぎて、今の時代に厳しくない?」という私の杞憂を吹っ飛ばしてくれたのが、能年玲奈(現芸名:のん)の演技だ。
『あまちゃん』では岩手の田舎娘を演じていたが、本作ではちゃんとヤンキーになれている。それも前時代的なヤンキー像を演じるのではなく、極めて現代的なそれになっている。個を尊重し、少し乾いた感じで暗い。今の時代にヤンキーを選ぶことが、以前より深刻度が増しているように感じさせる。
木村佳乃演じるママに向かって、「あたしがパパじゃなくて、あの人の子どもだったらよかったね」と言い放つ能年玲奈。洋志に「お前には関係ねーだろ」と言い放つ能年玲奈。『あまちゃん』の太陽のような演技から一転、底知れない陰鬱さを放つ。その凄みに「どんだけ重いんですか!」と思わずこちらも張り詰めてしまう。
そんな陰鬱さから、後半では解き放たれた表情を見せる。これは、能年玲奈が少女から大人になるための「青春ノアール」映画と言ってもいいかもしれない。
9 Recommended movie
(c)2016映画「ちはやふる」製作委員会 (c)末次由紀/講談社
ちはやふる【上の句】
(2016年)小学生の頃から競技かるたに夢中だった綾瀬千早(広瀬すず)は、綿谷新(真剣佑)、真島太一(野村周平)と『チームちはやふる』を結成。絆で結ばれた3人だったが、新が家庭の事情で福井に戻ることになり離れ離れに。しかし高校に入学した千早は“偶然”太一と再会し意気投合、ぎりぎり5名の部員を集め競技かるた部を結成。全国大会出場に向け、練習に励むのだった。いつか、新と全国で再会するために……。
選出理由
まさに『FLASH』! 映画主題歌を担当するPerfumeの表題曲が象徴するのは、火花のような、閃光が走るような、かるたをひっくり返す一瞬のきらめき。だがそれはまた、千早演じる広瀬すずのあまりに鮮烈な、あまりにみずみずしい演技をも形容している。
本作での広瀬すずは、トレードマークのショートボブを“封印”、役柄のためウィッグをつけてロングヘアで演じているが、その魅力はいささかも変わらない。汗で濡れて重くなった前髪が、額にまとわりついても一切気に留めない。ただひたむきに、一点だけを見つめ、火花のようにかるたをひっくり返す!
そのひたむきさは、自分に思いを寄せる太一の気持ちにも一切気付かず、自分が新に惹かれていることすらも気づけない。無垢。かといって、決して人の気持ちをないがしろにするわけでもない。特に終盤、追い詰められて自棄になりかけた机くん(森永悠希)が、回想で千早を思い出すシーン。山を登りきろうとした机くんに優しく手を差し伸べる千早の表情は、菩薩のような慈愛に満ちていた。
萌えポイントが多すぎて数えきれない『ちはやふる 上の句』は、広瀬すずの広瀬すずによる広瀬すずのための映画だ。ちなみに本日10/12配信開始の『ちはやふる 下の句』では、クイーン役の松岡茉優がこれまた凄まじい魅力を振りまいている。どちらも決して見逃せない!
10 Recommended movie
(c) 八田鮎子/集英社 (c) 2016映画「オオカミ少女と黒王子」製作委員会
オオカミ少女と黒王子
(2016年)主人公の篠原エリカ(二階堂ふみ)は、高校1年生。多感なお年ごろ、友達に合わせていっぱしの恋愛話を語るも、実は恋愛経験ゼロ。街で見かけたイケメンを盗撮し彼氏と偽るも、バレそうになって窮地に。しかし、そのイケメンは同じ学校に通う佐田恭也(山崎賢人)であることが判明。彼氏のフリをお願いし承諾してもらうが、実は恭也は筋金入りのドS王子だった……!
選出理由
女優。まだ21歳の二階堂ふみ。アイドル的なルックス、『ニコラ』専属モデルを務めるなどモデルとしての顔を持っているけれども、彼女を表現する言葉は『女優』以外に見当たらない。それほど、二階堂ふみは作品によって驚くほどの変化を見せる。例えば、ヴェネツィア国際映画祭に出品され個人として最優秀新人賞を受賞した『ヒミズ 』では、ダークサイドに落ちていく主人公を必死で止める役を演じたし、『この国の空』では終戦直前の日本で妻子ある男に惹かれ“女”に目覚める役。そして今作『オオカミ少女と黒王子』では、あまりにドジでドタバタな、そしてドMな主人公役を演じる。
山崎賢人演じる恭也に「三回まわってお手からワンだな」と言われれば素直に回ってワンと言い、待ち合わせに遅れればほっぺたをムギュッとつねられあられもない変顔に。口の周りいっぱいにホイップクリームをつけて白目をむいたり、とにかくそこにはシリアスさも高潔さもない、ただただ篠原エリカというキャラクターに没頭する二階堂ふみがいる。
可愛いかどうかといえば、もうとんでもなく可愛い。のだけど、彼女のフィルモグラフィを知れば知るほど、画面の裏で重ねられる努力の質と量を想像し、唖然としてしまう。そんなことは一切考えなくても十分楽しめるが、本作で二階堂ふみに初めて惹かれたという人はぜひ『ヒミズ』『私の男』など別の作品にもチャレンジしてほしい。二階堂ふみという驚くべき女優の資質に気づくはずだ。
いかがだっただろうか? 今や日本映画において、少女漫画原作ものが欠かせない存在になっていることが少しは伝わったのではないだろうか。映画はその時代を映し出す鏡であると良く表現されるが、少女漫画も、その時代の女性を映し出す鏡であると言われている。単なる恋愛物に留まらない少女漫画原作の映画は、これからも日本映画の中心的な存在であり続けるだろう。
紹介作品一覧
(C)2012「映画 ホタルノヒカリ」製作委員会 (C)2013青木琴美・小学館/「カノジョは嘘を愛しすぎてる」製作委員会 (C)2014「好きっていいなよ。」製作委員会 (C)2015映画「ストロボ・エッジ」製作委員会 (C)咲坂伊緒/集英社 (C)2014映画「アオハライド」製作委員会 (C)咲坂伊緒/集英社 (C)2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ (C)2015 ジョージ朝倉/祥伝社/「ピース オブ ケイク」製作委員会 (C) 2014「ホットロード」製作委員会 (C)紡木たく/集英社 (C)2016映画「ちはやふる」製作委員会 (C)末次由紀/講談社 (C)八田鮎子/集英社 (C)2016映画「オオカミ少女と黒王子」製作委員会