「な゛んでな゛んだよ゛ぉ゛ぉ゛」!! “濁点絶叫ボイス”と表現すればいいのか、単なる文字表記では収まらない感情表現が持ち味の俳優といえば藤原竜也だ。2000年に『バトル・ロワイアル』で主演に抜擢されて以降、数多くの作品に出演・主演。最新作『僕だけがいない街』でも、主役・藤沼悟を演じている。34歳となる現在、ますます表現の幅を増し、円熟味さえたくわえてきた。日本映画界を代表する俳優の1人となった彼の作品を、今回は8本紹介させていただこう。
Recommended movie No.01
紹介理由
藤原竜也のキャリア初期となる出世作。当時は無名の新人であった高見広春の書いた小説を、巨匠・故深作欣二が映画化。血しぶきが至るところで飛び交う、切迫した空気が漂う熱量の高い作品に仕立てあげた。西鉄バスジャック事件の発生といった当時の時代背景に加え、「中学生同士が殺しあう」という原作の内容もあって当時の衆議院議員を中心に大きな議論が巻き起こった。
藤原竜也は42人の生徒のうちの1人。同じ孤児院で育った親友・国信慶時(小谷幸弘)が好きだった子・中川典子(前田亜季)を守る役回りだ。「な゛ん゛でだよ゛ぉ゛ぉ! な゛んでみ゛ん゛な゛簡゛単に゛殺しあ゛うんだよぉ!」というおなじみの絶叫は、このころすでに確立している。同世代(作品公表時、藤原は18歳)の若い俳優・女優陣が多い中で、彼の存在感は一枚上だ。
前田亜季、柴咲コウ、栗山千明ら、後に名女優と呼ばれる若手女優の演技も瑞々しい。栗山千明がナイフを取り出し「アタシの全存在をかけて、アンタを否定してあげる」と言い放つ。夢にみそうなセリフだ。冷徹にクラスメートを殺しまくり、何度でも起き上がる柴咲コウの表情とバネのある動きも見どころ。異常なシチュエーションで感情を露わにする藤原竜也の演技は、この作品で世に知れ渡る。
Recommended movie No.02
バトル・ロワイアルII
(2003年)紹介
前作の終了から3年、『BR法』の犠牲者は未だあとをたたない。そんな中、反BR法者が組織したレジスタンス集団WILDSEVENが首都庁舎爆破テロを敢行。WILDSEVENのリーダーとなっていた七原秋也は、「俺たちは今、すべての大人に宣戦布告する」という犯行声明を出した。子どもたちの報復を恐れた政府は、BRIIと呼ばれる新世紀テロ対策法を発令。島に立てこもるWILDSEVENのリーダー、七原秋也(藤原竜也)を見つけ出して殺害するというゲームが始まった。
紹介理由
続編となる本作品では、前作メガホンをとった深作欣二監督が撮影前に逝去。引き継いだのは、息子である深作健太。息子とはいえ急きょ起用された新人監督、完成度が不安視された部分はあるものの、なかなかの作品に仕上がっている。「ペアとなった生徒は、どちらかが殺されるか、50メートル以上離れるともう1人も死ぬ」というルール追加などの変更点も興味深い。
前作では無人島における殺し合いが描かれたが、本作では強制徴用された中学生と反政府組織、さらに自衛隊との戦闘シーンがメインのアクションもの。本作の藤原竜也は、前作とうって変わって生徒たちのターゲットに。作品中盤、ゲリラの首領として姿を見せた彼は、青井拓馬(忍成修吾)の激情を受け止め「答えはない。自分で探すんだ」と人生を諭す。前作が“動”とすれば、今作は“静”の印象。本作の藤原竜也には、ベテランの風格すら漂っている(実年齢では忍成よりも1つ年下)。
「中学生が殺しあうんだ、スッゲー!」という前作から比べると、「戦争とは何か、テロとはなにか、そして正義とは何か」というように風呂敷を広げすぎた感はあるものの、中学生を題材にしているからこその青臭さも随所に残っている快作だ。
Recommended movie No.03
かまいたちの夜
(2002年)紹介
人気ゲーム、「かまいたちの夜」のファンサイトにアクセスする面々は、ゲームと同名のペンションでオフ会を計画するが、そこでゲームと同じく、殺人事件が起きる。
紹介理由
「かまいたちの夜」、オリジナル版はスーパーファミコンのゲームだ。サウンドノベルと称された作品で、選択枝を選ぶことで多くのストーリー・結末を楽しめるようになっている。本作は、PS2版『かまいたちの夜2』発表時にタイアップとして作られたテレビドラマ作品である。ゲームのストーリーをなぞったものではなく、ネットに集った愛好者が元のキャラのハンドルネームで呼び合うメタ構造になっている。
藤原竜也は主人公格だが、意見を強く言えない引っ込み思案な青年・佐竹高彦を演じる。他作品に比べると抑揚に乏しいものの、幼いころの事件が原因で「見えない友だち」を作り出して会話するという陰気なキャラクターは見事に成立している。彼の激しい感情を押し出す演技が前面に出ていないという意味では、珍しい作品といえる。小粒な作品ではあるがゲームの雰囲気をうまく再現しており、しっかりと怖い作品に仕上がっている。
Recommended movie No.04
紹介理由
原作は、週刊少年ジャンプで連載していた人気漫画。斬新な設定、精緻な絵柄、スピーディな展開もあいまって大ヒットした。藤原竜也はダブル主人公の1人、夜神月を演じている。原作では天才肌の色男、負けず嫌い、幼稚、そして傲慢な男という設定。見得を切るような劇場的なセリフ回しで、夜神月の人物像をうまく表現した。一方で、南空ナオミ(瀬戸朝香)に秋野詩織(香椎由宇)を撃たせたシーンでは、すべて自分の計算づくにも関わらず「ど"う"し"て"し"お"り"を"う”っ"た"ああ」と、例の調子で絶叫するシーンもある。
それぞれのエピソードは原作から引っ張りつつ、その意味や前提となる描写は少しづつアレンジされている。特に終盤の展開はガラリと変わっており、制作陣が独立した映画として自分のものにしようと格闘したあとが伺える。漫画原作とは違う方法で、作り手にとってのリアリティを突き詰めた表現を獲得しようという、有名原作モノならではの足掻きを感じられる一作だ。本作は前編であり、後編にあたる『DEATH NOTE デスノート the Last name』も公開中。
Recommended movie No.05
カイジ 人生逆転ゲーム
(2009年)紹介
友人の借金を背負うことになった、ギャンブル狂のフリーター伊藤カイジ(藤原竜也)。その借金を返済するため、大金のかかったゲームに誘われる。賭場は希望の船、エスポワール。一夜限り、人生をかけた大勝負が始まる。「勝たなきゃゴミだ!」
紹介理由
デスノートと同じく漫画原作であるが、青年誌連載の本作にファンタジー要素は少ない。なにしろ、主人公は自堕落なフリーター。デスノートでは天才を演じた藤原竜也は、今作では真反対といえる情けない配役だ。序盤、バトル・ロワイアルで仲間となった山本太郎が出てくるのもニヤリとさせられる。それにしてもこの2人は、やたらと殺伐とした世界に放り込まれていると感じるのは私だけだろうか?
話を元に戻すと、もともと原作の漫画では、綿密な伏線を張った勝負漫画である。例えば、冒頭で行なわれる「限定ジャンケン」は、12枚のカードに書かれたチョキ、パー、グーのカードでジャンケンをするゲーム。なのだが、この実写映画はタイトに刈り込んでいて、原作では数時間行なわれた勝負がたったの30分に圧縮されている。
これによってタイムサスペンス要素が強まった一方、ロジカルなギャンブルバトルのおいしさはしっかり温存された。スピード感とテンションの高さが、実写劇場版の新たな魅力になっている。情けなく泣きわめき、顔芸ともいえる極端な表情を見せる藤原竜也が見られるのも本作ならでは。
Recommended movie No.06
ST 警視庁科学特捜班【日テレOD】
(2013年)紹介
多様化する現代犯罪に対応するため、科捜研は優秀な研究員5名を集め特別捜査権を与えた。通称「ST」(Scientific Taskforce、科学特捜班)と呼ばれる警視庁科学特捜班は、科学を武器に犯罪を追う。
紹介理由
原作は講談社ノベルスから刊行されている、今野敏の推理小説。彼は濃いめのオタク小説家としても有名であり、テイストとしては漫画よりも漫画らしい。のちに連続テレビシリーズや劇場版も作られるが、本作は2時間の単発ドラマ版。映画に比べると作りがチープな部分もあるが、やたらとデフォルメされた個性的なキャラクターと軽快なノリで気軽に楽しめる作品だ。
舞台装置となる科学特捜班は変人ぞろいであるが、藤原竜也演じる赤城左門はリーダーなのに対人恐怖症でまともに表にでてこない、一匹狼なので会議にも出席しない、まるで出オチみたいなキャラクター。だが、これがいい味を出している。喋るとなったら立て板に水、必要なことだけを話し、その意見は正確無比。そんないびつな天才は、岡田将生演じる熱血漢の新任リーダー・百合根といい対比になっている。バラバラだったチームが一つになっていく終盤、頑なだった赤城が折れるシーンは爽快感がある。すでに一般知識となりつつある『プロファイリング』を逆手にとった展開も見事だ。
Recommended movie No.07
(c)2015「探検隊の栄光」製作委員会 (c)荒木源/小学館
探検隊の栄光
(2015年)紹介
落ち目の役者・杉崎(藤原竜也)は、秘境を探検するB級テレビ番組のオファーを受ける。しかし現地にはあまりにいい加減な制作スタッフと薄い台本。翻弄される杉崎は、それでも真面目に仕事をこなそうとするのだが……
紹介理由
2016年の現在、『川口浩探検隊シリーズ』を知る人も少なくなってしまったかもしれない。この映画に出てくるようないい加減でヤラセ満載、そのくせ海外ロケはやる。予算があるのかないのかよくわからない、妙に熱くて楽しい番組だ。本作には、川口浩探検隊へのリスペクトとパロディが随所に詰め込まれている。
本作はコメディだが、藤原竜也演じるのは超がつくほどの真面目な役者。しかし、その一挙手一投足はいちいちおかしい。制作スタッフの適当さ、後編集と吹き替えの無駄なクオリティの高さ、どこまでもズレていくシチュエーションコメディである。
とはいえこの藤原竜也がまたスゴイ。劇中の役者としてセリフを言うときはいかにも売れない役者っぽく大仰に、オフカットのシーンでは困り切った姿を自然に演じる。こんなに眉間にしわのよった、困った表情の藤原竜也は新鮮かもしれない。
脇を固める役者たち、とくにプロデューサー=ユースケ・サンタマリアは発する言葉が擬音ばかりという適当さがたまらない。どこまでいってもしょうもない人々と思いきや、時折入り混じる仕事論はしんみりくるものがある。しかめっ面して真面目にやるばかりが仕事じゃない、無駄も下らなさもあってこその面白さがあの時代にはあった。熱さがあった。スタッフに感化された杉崎の熱弁には、胸が熱くなる。
「いいもの作るのに、それまでのキャリアなんて関係ない。ドラマとかバラエティとか関係ない。大事なのは熱意なんだって。情熱なんだって。そう気づかせてくれたのは貴方たちじゃないですか!」
派手さはないが、笑えてちょっぴり感動もできる映画だ。1人でみるよりみんなで笑いながら見るのがお勧め。あの時代のあの番組がそうだったように。
Recommended movie No.08
僕だけがいない街
(2016年)紹介理由
現時点(2016年9月時点)での最新主演映画。「まただ、時間が巻き戻る。リバイバルってことか?」という印象的な台詞とともに、幼年期を演じる中川翼と入れ替わりながら藤沼悟を演じていく。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『バタフライ・エフェクト』『時をかける少女』など時間逆行ものの作品は数多いが、本作もその系譜に名を連ねる。
本作での藤原竜也は、原作のキャラクターを尊重しつつ抑制すべきポイントと「藤原竜也節」を入れる局面をうまく使い分け、オリジナリティを存分に発揮している。例えば、母親が刺殺されたシーンでの「リバイバル……起きろ!!!」と絶叫したシーンなどは、悲しいシーンでありながらも「藤原竜也キターーー」と思わずにいられない。
一方で、全体をシリアスなトーンが覆っていること、彼自身が34歳(映像公開時)と成熟した年齢であることもあって、全体としては過去作の中でもかなり落ち着いた印象だ。とはいえ、真犯人を追い詰めた悟が「●●は正義じゃなきゃダメだろ!」と絶叫するシーンは胸を打つ。そしてラストのシークエンス、タイトルの真の意味を知ったとき、観客は涙を抑えきれないだろう。静と動、陰と陽、情熱と冷静さが交錯する見事な演技だった。
ものまねでパロディにされるほど、「藤原竜也=絶叫」という印象は強い。世間に深く認知されている証拠だろう。単なる脇役に収まらない存在感は、デビュー前に舞台『身毒丸』オーディションで見出され、故・蜷川幸雄に演技を徹底的に叩きこまれたゆえ。出世作『バトル・ロワイアル』でも、同年代と比べその存在感は際立っていた。以降、コンスタントに主演作が公開されており、名実ともに日本映画に愛される俳優の1人となった。最新作『僕だけがいない街』をまだ見ていないのであれば要チェックだ。
紹介作品一覧
提供 東映株式会社/(c) 2000「バトル・ロワイアル」製作委員会(c) 大場つぐみ・小畑健/集英社 (C)2006「DEATH NOTE」FILM PARTNERS(c) 福本伸行・講談社/2009「カイジ」製作委員会(c)2015「探検隊の栄光」製作委員会 (c)荒木源/小学館(c) 2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会